経済的な困難を抱えながら妊娠・出産を迎える妊産婦の方々、特にひとり親世帯の現状は、私たちが想像する以上に厳しいものかもしれません。
子ども支援を専門とする国際NGO、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが行ったアンケート調査によって、その実態が明らかになりました。この調査は、経済的困窮に加え、若年妊娠や未婚・ひとり親、多子世帯など、特定の困難を抱える妊産婦とその支援者を対象に実施されたものです。
アンケート調査で浮き彫りになった厳しい現実
今回の調査では、経済的に厳しい状況にある妊産婦の方々の現状が浮き彫りになりました。注目すべきは、応募者の半数以上が「無職」と回答し、さらに50.0%が「世帯の貯金ゼロ」という実態です。

妊娠・出産は、新しい命を迎える喜びに満ちた時期である一方で、経済的な負担も伴います。約9割の妊産婦が、妊娠・出産によって思うように働けなくなり、経済的に追い詰められている状況が明らかになりました。
ひとり親世帯が直面する養育費の問題
特に、未婚・ひとり親世帯の課題も浮き彫りになっています。応募条件で「未婚またはひとり親」と回答した人のうち、養育費について文書で「取り決めをしている」と回答したのはわずか4.3%にとどまりました。一方で、「取り決めをしていない」が32.9%、「相手と連絡をとっていない、連絡がつかない、関係が切れた」が23.6%と、子どもの権利として確保されるべき養育費が十分に確保されていない実態が示されています。

妊産婦と支援者の間で異なる支援のニーズ
希望する支援についても、妊産婦本人と支援者側で意識の差が見られました。妊産婦本人は、定期的な紙おむつなどの消耗品受け取り(90.8%)のほか、現金給付や経済的支援を強く希望しています。これに対し、支援者側は、妊娠中や産後のメンタル面での支援(66.9%)や家事・育児支援(61.4%)といった生活面の支援を重視する傾向があり、意識の違いが明らかになりました。

これらの調査結果は、経済的に厳しい状況にある妊産婦が、日々の生活費や育児用品の購入に困窮していることを示しています。そして、このような状況下では、病気や出産時の医療費負担が、さらに大きな重荷となる可能性が高いのです。
国民健康保険が果たす大切な役割
経済的に困難な状況にある方々にとって、病気やケガ、出産は大きな出費となり、生活をさらに圧迫する原因になりかねません。ここで大切な役割を果たすのが、国民健康保険です。
国民健康保険は、会社に勤めていて会社の健康保険に入っている人以外が加入する公的な医療保険制度です。加入していれば、医療機関にかかった際の医療費の自己負担割合が原則3割に抑えられます。つまり、医療費の大部分を国民健康保険がカバーしてくれるため、経済的な不安を軽減し、安心して医療を受けられるセーフティネット(いざという時のための安全網)として機能します。
出産時の経済的支援:出産育児一時金
国民健康保険には、出産に関する経済的支援もあります。それが出産育児一時金です。これは、国民健康保険に加入している方が子どもを出産した際に、世帯主に対して一定の金額(原則50万円)が支給される制度です。出産費用は高額になりがちですが、この一時金は大きな助けとなります。
高額な医療費を軽減する高額療養費制度
また、病気やケガで医療費が高額になった場合でも、高額療養費制度というものがあります。これは、ひと月の医療費の自己負担額が一定の金額(自己負担限度額)を超えた場合、その超えた分が国民健康保険から支給される制度です。経済的に厳しい状況で、予期せぬ大きな病気にかかってしまったとしても、この制度によって過度な医療費負担を心配せずに治療を受けられます。
このように、国民健康保険は、経済的に困難な妊産婦の方々が、病気や出産に際して過度な医療費の心配をすることなく、必要な医療を受けられるようにするための、非常に重要な公的支援制度なのです。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの取り組みと今後の提言
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、経済的困難を抱える妊産婦の育児費用の負担を軽減するため、育児用品のセット「ハロー!ベビーボックス」を提供しています。このボックスには、紙おむつやおしりふき、ベビーソープなど、新生児に必要な育児用品が詰め合わせられています。

調査結果を受けて、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、子ども家庭庁をはじめとする関係省庁や自治体に対し、以下の4点の支援強化を訴えています。
- 妊娠期から産後にかけた「物品支援・現金給付」の拡充と柔軟な活用: 経済的不安を抱える妊産婦が多い現状を踏まえ、即時性の高い物品支援や利用しやすい経済的支援の整備が求められています。
- 経済的支援を基盤とした生活・育児支援の必要性: 経済的困難が深刻な状況では、まず物品や経済的支援を確保した上で、生活支援や育児支援を行うことが重要です。
- 子どもの権利として養育費を確保するための、妊娠期からの伴走型支援: 養育費の取り決めが極めて低い実態を踏まえ、養育費を子どもの権利として位置づけ、妊娠期から継続的に寄り添う支援が重要です。
- 自治体とNPO、市民団体との積極的な連携: 制度で対応が難しいケースにおいて、自治体がNPOや市民団体と連携し、支援を補完する体制づくりが求められます。
これらの提言は、国民健康保険のような公的制度だけではカバーしきれない、きめ細やかな支援の必要性を示しています。経済的な支援と合わせて、精神的なサポートや育児に関する具体的な支援が、困難を抱える妊産婦とその子どもたちの健やかな成長には不可欠です。
まとめ
経済的に困難な状況にある妊産婦、特にひとり親世帯の厳しい現状が、今回のアンケート調査で浮き彫りになりました。国民健康保険は、医療費負担という大きな不安を軽減し、安心して医療を受けられるための大切なセーフティネットです。
しかし、調査結果が示すように、医療費以外の生活費や育児用品の準備、そして養育費の確保といった多岐にわたる課題が存在します。これらの課題に対しては、国民健康保険だけでなく、物品支援や現金給付の拡充、生活・育児支援、養育費確保のための伴走型支援、そして自治体とNPO・市民団体との連携といった、多角的な支援が求められています。
すべての子どもが「健康に、安心、安全な環境で育つ」という権利を保障するためには、社会全体で連携し、支援を必要とする妊産婦とその家族を支えていくことが重要です。
詳細な調査結果報告書はこちらからご覧いただけます。
https://www.savechildren.or.jp/news/publications/download/report-hbb2025Autumn.pdf
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンについて
https://www.savechildren.or.jp/
